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今回ご紹介するのは、NOT A HOTELのオーナーだけが利用できる「NOT A HOTEL EXCLUSIVE HIROO」を手がける、Wonderwall®︎片山正通氏へのインタビュー。NOT A HOTELオンラインサイトでの公開と同時にお届けいたします。
NOT A HOTEL EXCLUSIVEは通常のNOT A HOTELとは一味違う。オーナーだけが利用できる特別な空間で、革新的な新しい暮らしの可能性を探っているのが「EXCLUSIVE」ラインの特徴だ。今回はその第一弾である新しいかたちのオーベルジュを手がけるWonderwall®︎片山正通氏に話を聞いた。
NOT A HOTELとWonderwall®︎片山正通の最初のミーティングは、たったの30分で終わったという。2020年春のことで、NOT A HOTEL代表の濱渦伸次は、広尾に構えるスペースのデザインを依頼するために、千駄ヶ谷にあるオフィスを訪れていた。
「濱渦さんがいらっしゃって『こういうことをしたいので、よろしくお願いします』と、NOT A HOTELの概要を説明して30分くらいで帰られましたね」。その打ち合わせが行われたのと同じ、さまざまなアートに囲まれた天井の高い会議室で片山は振り返る。
その際に濱渦がリファレンスとして見せたある写真が、片山の心を掴むことになった。ベルギー人建築家 ヴィンセント・ヴァン・デュイセンが手がけた「Graanmarkt 13 The Apartment」というアントワープのアパートメントホテルの写真だ。2020年2月にオランダのインテリア雑誌『FRAME』が主催するアワードで、Lifetime Achievement Award(生涯功労賞)を受賞した片山は、授賞式に参加するためアムステルダムを訪れた。受賞式の後、同世代の建築家としてシンパシーを感じていたヴィンセント・ヴァン・デュイセンに会うためアントワープを訪れ、彼の手がけたホテル「Graanmarkt 13 The Apartment」に滞在していたのだ。それは濱渦と会う1ヶ月前のことだった。
「Graanmarkt 13」はB1Fにレストラン、1Fと2Fにセレクトショップ、3Fと4Fがアパートメントスタイルのホテルになっていて、元はオーナーの住宅だった空間をホテルとして貸し出している。「いい意味でデザインをしていない」と片山が語るそのホテルは、デザイナーのエゴよりも住み手や暮らし手の心地よさが優先されており、その佇まいは彼の価値観に大きな影響を与えていた。
「そんな時期に濱渦さんがこの写真を持っていらっしゃって、運命的なものを感じたんです」と片山は言う。「この写真が醸し出す普遍的な空気感を共有できたのは大きかったですね。デザインの方向性が明快になったので、ここからはNOT A HOTELらしさをどう表現するかを考えればいいなと。それがプロジェクトのスタートでした」。
デザインをしないデザイン
NOT A HOTEL EXCLUSIVE HIROOは、地下1階、地上5階建。複数の段階を経て進むこのプロジェクトでは、現在建築部分と1階のラウンジスペース、CHIUnEが店を構える地下1階のレストランが完成している。今後、NOT A HOTELのオーナーが利用できるリビングルーム「Owners Room」を皮切りに、他フロアーも順次着工予定だ。
この場所はレストランとラウンジスペースを構えることで、緊張感を持ちつつも、ラウンジスペースに入ればどこまでもリラックスできる空間になっている。レストランとラウンジスペースという異なる要素を共存させるためのバランスを、片山は「デザインをしない」ことで作り上げていた。
従来のラグジュアリーを象徴するオブジェクトやマテリアルを排除し、素朴だが上質なマテリアルを使っていく。同時に、さりげない光の入り方や曲線の使い方によって、片山曰く「空間の色気」を醸し出していく。つくり手の意図や主張を感じさせることなく、落ち着いた空間のなかで日常と非日常の間の特別な時間を過ごすことができる──そんな「新しいラグジュアリー」のあり方が提示されている。
「この場所は広尾という利便性の良い土地でありながら、大通りから少し入った場所に位置するため、都心とは思えない静かな場所。隣の神社には豊かな緑もあり、東京ではないどこかに来たような、そんなトリップ感が出ると思います」と片山は言う。「素晴らしい環境を享受し、ここから出なくてもいいと思えるような場所にしたいと思いながら、デザインを進めました」。木々に囲まれたこの場所は、「借景の家」と名付けられることになった。
もうひとつ、片山が軸に置いた考え方が「西と東の融合」だ。「これまで世界中で建築やインテリアを見てきて、西洋のデザインに東洋の影響を感じることが多くありました。特にこの10年くらいは自然と自分のルーツである『日本』を強く意識するようになっていたので、日本人としてとても気になっていたんです。とはいえ、単に日本的なマテリアルやフォーマットに落とし込むのではなく、一旦自分の中に取り入れた上で、いまの自分を通して再解釈した日本を表現しないと世界では勝負できない。日本の要素を取り入れているヨーロッパのデザイナーから、逆にそうしたことを教わることになったんです」
広尾のプロジェクトのなかにも、片山の感じる日本は表現されている。しかしそれは、必ずしも目に見えるものではないという。」「ひけらかす必要もないんです。日本人が持つ高い美意識は、目に見えないディテールの積み重ねの上に成り立っているものも多い。ほのかに日本的な感覚を感じてもらえる程度でいいのかなと思っています。」と彼は言う。
変革期と集大成
インテリアデザイナーとして、ユニクロからNIKE、コレット(パリ)、*A Bathing Ape、DEAN & DELUCA、INTERSECT BY LEXUSなど、30年以上にわたってブティックやレストランなどの商空間を中心に仕事をしてきた片山はいま、変革期を迎えているという。自身初の住宅プロジェクトとなった「AMOMA」や奈良にある築100年の古民家を使った1日1組のホテル「翠門亭」など、この数年で手がける対象が商空間から居住空間にシフトしていっているからだ。
「ここ数年、ホテルやレジデンスのデザインに意識が向いていました。そんな中、不思議ですが、依頼されるプロジェクトの性質も変わってきたんです。これからは、住宅も積極的に手がけていきたいと思っているところなんです」と片山は語る。
「とくにコロナ以降、住むことに対する概念も変わってきているなかで、ぼくが培ってきたいままでの知識をすべて投入しながら、大胆に、かつ削ぎ落とすところはどんどん削ぎ落としながら、新しい居住空間を提案していきたい。そして、ぼくにとってはNOT A HOTEL EXCLUSIVE HIROOが現時点での最新のプロジェクトなので、ひとつの集大成として、ここ30年のなかで最良のものにしたい。曖昧でありながらも、ぼくのなかではすごく確信的に『新しいラグジュアリー』をつくりたいと思っています」
片山が提案する「新しいラグジュアリー」は、キャリアの集大成として生まれる壮大なものであると同時に、ものすごく直感的でシンプルなものでもあるという。インタビューが終わり、撮影の準備をしているときに、彼はふと思い出したようにこうつぶやいた──「NOT A HOTELは、うちの事務所をつくったときの感覚に似ているんです」。日々多くの時間を過ごすWonderwall®︎の事務所は、片山が自分のためにつくった空間だ。同じように、NOT A HOTELも自分が過ごしたい空間をつくっている感覚に近いのだと片山は言う。
「デザインという仕事には自分が投影されるので、自分が住むんだったら、自分が泊まるんだったらとつい考えてしまいます。これからのラグジュアリーというのは、案外そういったところから生まれるのかもしれないですね」
片山 正通 / Masamichi Katayama
インテリアデザイナー/ワンダーウォール代表。片山正通率いるWonderwall®は、コンセプトを具現化する際の自由な発想、また伝統や様式に敬意を払いつつ現代的要素を取り入れるバランス感覚が国際的に高く評価されている。ブティックからブランディング・スペース、大型商業施設の全体計画まで、世界各国で多彩なプロジェクトを手がける。代表作に、外務省主導の海外拠点事業 JAPAN HOUSE LONDON、ユニクロ グローバル旗艦店(NY、パリ、銀座等)など。2020年、オランダのデザイン誌『FRAME』主催の「FRAME AWARD 2020」でLifetime Achievement Awardを受賞。
STAFF
Text: NOT A HOTEL
Photo: Tetsuo Kashiwada
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