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今回ご紹介するのは、オーベルジュである「NOT A HOTEL ASAKUSA」の食を手がける、「桃仙閣 東京」のオーナーシェフ 林 亮治氏へのインタビュー。
「縁卓の家」をデザインコンセプトとするNOT A HOTEL ASAKUSAだからこそ楽しめる、会話のような料理。
前回に引き続き是非ご覧ください。
林 亮治(桃仙閣、桃仙閣 東京、茶禅華)
美食を食べ慣れた大人たちを魅了する肩肘張らない現代の“町中華”「桃仙閣 東京」。東京のフードシーンを牽引するこのチャイニーズレストランのオーナーを務めるのが林 亮治さんだ。NOT A HOTEL ASAKUSAは、“「桃仙閣のハナレ」が浅草にあったら?”という形をとったオーベルジュ。ここでは、時代のニーズに合わせて新しい食の場を創出してきた林さんに、浅草で目指す食の場の形を伺う。
まず「桃仙閣 東京」について、どんな店なのかを説明したい。母体となるのは、林さんの実家である島根県で50年以上続く中国料理店「桃仙閣」。宴会場から個室までを備え、ウエディングサロンやカフェ、リラクゼーションサロンなどを系列にもつ、地元の有名店だ。そんな「桃仙閣」で育った林さんが幼少時から慣れ親しんできたのは、ほっとできて気取らない“普通の”中国料理。具体的な料理でいえば、餃子や春巻き、炒飯や麺類といったいわゆる“町中華”のメニューたちだ。そんな肩肘張らず、飾らず親しみやすい中国料理をまっとうに、そして、食べ慣れた東京の大人たちが満足するクオリティーで提供するのが「桃仙閣 東京」。上質な料理を気軽に味わうことができる、東京にあって貴重な店だ。
「目指すのは“さりげない上質”。堅苦しさがなくて、でもかゆいところに手が届く料理とサービスを提供する店。美食に慣れた大人が気軽に楽しめる、程よい場所です」と林さん。「今の東京には、レストランの想いや主張を強く打ち出したお店が多い。一斉スタートだったり、おまかせ一本だったり。そんな明確な意思のあるお店も素晴らしいけれど、『桃仙閣 東京』の場合はお客様が主体。集まりの趣旨や人数に合わせてお使いいただける、お客様を“受け入れる”店です。自分もよく食べ歩きをするので、より痛感できるんですよね。心地よくて、何度も通いたくなるのはどんな店なのかが。ここは自分が考える、大人が心地よく過ごせる店です。メニューは、誰もが見てわかる、食べ慣れた“日本の中国料理”。日本で発達した中国料理が本来もつ、老若男女に対しての懐の深さを表現できたらと思っています」
コースも用意するが、自由気ままに楽しめるアラカルトが主体。「上質なワインが欲しい」「ちょっと少なめ」「もう少し食べたい」「酢豚を一口だけ」(!)、そんなリクエストにも気軽に応じてくれる。さらに、ラストオーダーは25時。多忙を極める経営者や業界人が多く通うというのも頷ける店だ。
それでは、こんな「桃仙閣のハナレ」が浅草にできたら、しかもオーベルジュだったら、どんな“場”ができあがるのだろうか。プロジェクトはまだ進行中の部分が多いが、林さんの根底にあるイメージは明確だ。「自分は建築が好き、旅行が好き、食が好き。NOT A HOTELのオーベルジュというお話をいただいた時、自分の好きなものに合致した、楽しそうなお話だなと思いました(笑)。例えば自分がマンションを買っても、それは基本的に自分だけのもので、クローズドな世界ですよね。その点、NOT A HOTELは程よく開かれた非常に素晴らしい試みだなと惹かれました」
「そんな場所で実現したいのは、六本木の『桃仙閣 東京』と似て非なる空間。上質でさりげない、そこはそのままに、浅草では、よりお客様に寄り添った料理が提供できると考えています。お客様に合わせたフレキシブルさをもっと大切にしたいなと。基本は中国料理ですが、お客様や時期に合わせてフレンチやイタリアンの料理人や寿司職人とコラボレーションしてもいい。その“場所”を使って、お客様が喜ばれるお手伝いをしていていきたいですね」。
「オーベルジュには大きな可能性を感じます。食事する3時間だけに留まらず、24時間近く、そこで過ごしていただく時間すべてに関わる仕事だと考えています。1回のコースをすごく高いクオリティで作るというより、総合力が問われるなと。ピンポイントではなく、ひろがりのある時間そのものに対するサービスが必要になると思います。浅草では、場、料理、人が調和する時間を創りたいですね」。DAIKEI MILLSが手掛けるNOT A HOTEL ASAKUSAのデザインコンセプトは、“縁卓の家”。築50年を超える一棟ビルをリノベーションした空間で、1階と2階に大きなテーブルを備え、吹き抜けの螺旋階段で1階から3階までが繋がる。全4フロアのゆったりした空間で、少人数で泊まっていただくというよりは、6〜8名での利用を想定した建物だ。
「大切なメンバーと、時間を気にせず過ごしていただきたいですね。2〜3時間のコースを出して“はい、終わり”ではなく、例えば少しずつ料理を食べていただいて、ちょっと休憩してお酒をゆっくり飲んでいただいて、また少し経ったら麺やご飯物を出してと、そんなイメージ。お客様の気分やコンディションに合わせて、“時間を過ごすような”料理を提供できたらと思っています。上質なホームパーティのような感じですね。また、『何が食べたいですか?』『これから餃子でも焼きますか?』と、こちらから聞いてメニューを決める。そんなフレキシブルさがあってもいいなと。最後には自分も一緒にワインを飲んじゃうかもしれないですね(笑)。ワインもシーンやメンバーに対応できるように幅広く、ブルゴーニュなど正統派から個性のあるナチュラルワインまで、バラエティ豊かに揃えたいと考えています」
「料理については、ホテルのつくりからしておひとりや2名様ということはないと思いますので、大皿料理や、子豚一匹のように豪快な料理も混じえていけたらと。フレキシブルさの話を先にしましたが、メニューを最初から決め込まなくてもいいのかなと。40〜50%くらいを固めておいて、あとはお客様と対話しながらご提供できたら楽しいですよね。『桃仙閣 東京』の料理の枠を飛び越えて、お客様と交流することによってうまれる会話のような料理。もしかしたら皆で餃子を包むなんてことがあってもいいし、上海蟹を山盛りにして提供してもいい。ラグジュアリーな空間でラフなこと、ワイルドなことをする楽しさがを味わっていただきたいですね。一見のお客様ではなく、オーナーの顔が見えるというところもNOT A HOTELならではのユニークな点。オーナーに合わせてオーダーメイドで料理、ひいては滞在プランを練りたいですね。ここであれば場と料理を軸にして、実験的なことをいろいろと試すことができるのではないかと思います」。林さんが次に創出する食の場は、「桃仙閣」とも「桃仙閣 東京」と違う空間。ここにうまれるのは、“会話するように”食事の時間が進む、新しい外食の形といえるだろう。
NOT A HOTELのオーベルジュも踏まえながら、これからの林さんの夢を教えてもらおう。「自分自身も料理人なので、料理をするほどに、才能ある人の集中力やセンスには敵わないなと実感するんです。そういう方々が、もっと働きやすい場所、やりたいことを叶えられる場所を作ることができたらなと。料理の才能に加えて、経営面だったりデザイン面だったり、飲食店を運営するにあたって必要なことがたくさんありますよね。そういう点を僕が補って、飲食に関わる人たちが幸せになれる場を作りたいと思っています」。話を伺えば伺うほど、林さんの料理愛と料理人に対する愛は絶大だ。NOT A HOTEL ASAKUSAを含め、林さんがうむ場所には“おいしい”期待しかない。
林 亮治 / Ryoji Hayashi
1977年、島根県生まれ。高校卒業後、「筑紫樓恵比寿店」で3年間修業。西麻布と香川県高松市の「麻布長江」で計3年間研鑽を積むと、島根の「桃仙閣」に戻り、さまざまな改革を行う。2017年、南麻布に「茶禅華」を川田智也氏とオープン。(現在は代表を退任し川田氏に譲渡)2020年、「桃仙閣 東京」を開業。2021年新たに中国料理店と日本料理店をオープン。ワイン会社も経営する。
店舗情報
桃仙閣 東京
オーナーの林 亮治さんが、実家の島根「桃仙閣」の姉妹店として2020年、六本木にオープン。アラカルトを主体に肩肘張らない“町中華”メニューを高いクオリティで提供。25時ラストオーダーという使い勝手のよさもあり、経営者からフーディーまで幅広い層にファンが多い。
東京都港区六本木4-8-7 嶋田ビルB1F
STAFF
Text: Kodai Murakami
Photo: Tetsuo Kashiwada
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